海外から徹底的に学ぶ姿勢

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 2018年は明治維新から150年の節目の年だ。現代の日本人は明治維新から何を学ぶべきか。様々な見解があるが、僕は「海外から徹底的に学ぶ姿勢」だと思っている。

 当時の指導者は、世界の強国に学ばなければ日本の未来はないと考え、明治4年1871年)から1年以上にわたり欧米諸国に岩倉使節団を派遣した。まだ国の基盤が固まっていない時期に、多くの政府高官が長期間日本を離れることはリスクだったに違いない。しかし、国を率いるリーダー自らが欧米各国の制度や産業を視察し、自国とのギャップを肌で感じた経験は、日本を近代国家へと導く大きな原動力となった。

 翻って今の日本はどうか。グローバル時代のさなかであるにもかかわらず、世界に学ぶ姿勢を失ってはいないだろうか。「女性が輝く社会」とうたいながらも、欧米で効果をあげているクオータ制(役職の一定割合を女性に割り当てる制度)を導入しようとはしない。イノベーションにはダイバーシティ(多様性)が重要だといいながら、多くの企業のボードメンバーは日本人のシニア男性ばかり。「海外ではうまくいっても、日本には合わない」と思考を停止させ、世界に学ぶことを拒むありさまは、まるで精神的な鎖国だ。

 興味深い調査結果がある。米エデルマン社が17年に実施した信頼度調査「トラストバロメーター」によると、日本で自分が働く会社を信頼している人は57%。グローバル平均(72%)を下回り、韓国と並んで主要28カ国中最下位だった。

 なぜ日本の働き手は、組織を信頼していないのか。それは企業が高度成長時代の成功体験から脱却できず、時代の変化に適応できいていないと肌感覚で知っているからではないか。「こんなことではダメだ」と思いながらも、声をあげたらつぶされると不作為を決め込む。社会や組織の未来より、自分の立場を守り、逃げ切ることを重視する。日本を覆う閉塞感の正体は、様々な立場で日々繰り返される不作為の累積であるような気がしてならない。

 待っているだけでは次の維新は起きない。よりよき未来を願うなら、自ら精神的な鎖国を打ち破り、世界に目を向け、次世代のためにできることを考えよう。不作為をやめ、今の職場で、家庭で、地域で、できることから行動してみよう。人は誰もが、社会を変える力を持っているのだから。(出口治明氏 日本経済新聞朝刊2018年3月5日付)