Efforts in Japan and future agenda

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技術革新は雇用の敵ではない イルバ・ヨハンソン氏 スウェーデン雇用・社会統合相 

私見卓見
2017/10/26 2:30
日本経済新聞 電子版
 
 
 
 
 

 スウェーデンは世界でも最高水準の高賃金で知られるが、実は近年、かつて中国やアフリカなどに移転した製造業の拠点が国内回帰する動きがみられる。水栓金具のFMマットソン、芝刈り機のスティガなどの企業だ。ロボット、人工知能(AI)といった技術の登場で製造現場に必要な人が減り、人件費の割合が低下。生産性や質が重視されるようになったためだ。

 世界には保護主義的な政策や補助金などで古い産業を守ろうとする動きもあるが、スウェーデンの考え方は違う。守るべきは働く人であって、仕事ではない。競争力のない企業には、残念だが退場してもらう。労働力は成長企業に移る方が、働く人にも国の成長にとってもプラスだ。

 例えば食料品店などでは会計の自動化が進み、主に女性が就いていたたレジ係は消えつつある。これまで反復運動で腕を痛めていた女性たちはこの仕事から解放され、調理方法や新鮮な食材の見分け方をアドバイスするといった、より健康的でやりがいのある仕事を行っている。顧客の満足度も上がる。技術は仕事を奪うのではなく、仕事の意味を変えるだけだ。

 この考え方は労働組合も共有している。組合の幹部らは「怖いのは新しい技術ではなく、(自分たちが)古くなってグローバルな競争力を失うことだ」と口にする。組合の支持を得られるのは、失業者を守り、再就職に必要な職業教育を行う安全網のためでもある。今後は特に、外部環境の変化に対応するための生涯教育が政府にとっても重要な施策になる。

 技術や高齢化などで働き方は大いに変わっている。高齢者については、定年を67歳にし、長く働くほど年金の受給額が増えるよう制度を整えた。現在は69歳くらいまでのさらなる定年延長を検討している。企業側に高齢者を雇う動機を与える方法も検討しなければいけない。

 女性の社会進出も進んできているが、カギは信念をもって改革を断行したことにあった。例えば現在は定着している男性の育児休業取得も、導入前は反対が多かった。既存の価値観や生活様式を変えることには誰しも抵抗感を覚える。しかし、一度やってみれば10年前の己が恥ずかしいと思うくらい人は変われる。

 9月に日本を訪れ、新しい技術に前向きな姿勢が共通すると感じた。技術革新や働き方のモデルづくりで協力関係を深めたい。